「日常の変換」 加茂 茜 個展 の記録(11月19日~29日)

  •  「手話詩、手話歌、手話ダンス、手話ミュージカルなど手話は美しいものとして表現もされてきた。私はその手話を3Dペンの立体的な線でおこし、その形態的な美しさを表にうちだす。古来の日本では言葉は植物に例えられていることが多いという点、制作した手の塊が花のように見えたことをきっかけに、手話の指文字でメッセージになる形をつくり、それを花束のように束ねた。」
  •  「目からビジュアル、手から文字を感じる画面をつくるため銅版画の技法を用いて点字の凹凸を表現。詩人の森岡美喜さんにこの作品のための詩を書きおろして頂き、それを点字に置き換え、詩をイメージしたカタチに点をおく。私達からの目線では、公共の場所や商品などでひっそりと表示されている点字。普段気にも止めていないものかもしれないが、この作品の前では見えない人には見え、見える人には見えにくくなる逆転の状態をつくり出す。」
  •  「バーコードは数字とアルファベットを直線の太さと列で表すことができる。一般的に商品の価格や製造国、メーカーなどの情報を示される。私はこれを組み合わせ、広くつなぎ合わせることでモノを描き、画面であり情報である画面をつくり出す。左の作品では想像上の街をつくりだすことで象徴的な人の集まり、営みを連想する図をつくりそれが全て直線のコラージュで示された情報でカタチづくられている。バーコードの内容は実際に街で聞いた会話文を使用。都庁と東京駅の画はwikipediaの文章を使用。」
  •  「ピアノ演奏という聴覚で感じるものを触覚的に置き換え、最終的に視覚で演奏を感じる。今まで知っている音楽を指跡・爪跡の数や圧、場所などからどんな楽曲なのか、演奏者の感情を読み取ってみる。今回の展示では演奏時の指跡を型として使用し、石膏を流し込み指跡を逆転させる。変換に変換を重ねて演奏したことからほど遠い姿形にはなるものの発生源は演奏であり、これは表現の一つであるのだろうと思考する。」
  •  「慣れていない場所で外食をする場所を決める基準は人それぞれ違う。某ネットサイトの口コミを検索したり、テレビ・雑誌の評判を覚えていたり、あるいはその場の印象(看板やメニュー)で決めることが多いと思う。共通して言えるのは少なからず言葉に左右されている点だ。言葉はただの音であり、ただの形である。しかし今読んでいる文章も、思考する頭の中も言葉である。この作品ではその感覚をより強く感じ取るために、五覚の一つ「味覚」のイメージを利用する。」
  •  「当たり前のように身近に存在し、既定のサイズ、使用される場所や数、ほぼ全ての人々が同じ認識を持っているものに少しの変化を与えることでそれはアートになるのだろうか?私は今回、日本に古くから根付き誰もが一度は使用している襖を利用した作品を考えた。襖の引手は右によっていれば左に動く、左によっていれば右に動くなど動作を連想させる。私はその引手の位置を変えたり数を変えるなどの些細な変化を起こすことで、日本人の滞在的な感覚に違和感を発生させ、どこまでがアートと言えるのかこの作品を通して改めてみる。」
  •  「2012年5月、世界で一番高い電波塔が建てられた。この作品は現在の最新技術の詰まったスカイツリーと、1958年に建てられた東京タワーという象徴をモチーフに、世界最古に成立した電子ネットワークである「モールス信号」を用いて、過去の流れを意識に留めつつ情報の集積を表現した。長い年月をかけ著しく発展した通信技術は塔として形を成し、第四の権力と言われ始めたマスメディアたちの最大の伝達手段且つ、その権力の象徴に見える。様々なビル郡から発信された情報を一度吸収し、放出され続ける感覚はまるで街全体を形作ってしまう程の情報量、そして強い支配感を感じる。
  •     「加茂茜の作品について 」   菊 地  武 彦
  • 加茂の一連の作品は、どれも従来の絵画や彫刻の枠をはみ出したハイブリッドな作品だ。たとえば手話の形をした花束やバーコードでできた町並みなどは、従来の絵画の鑑賞方法を大きくはみ出す「読む」要素が入っている。つまり種類の異なった鑑賞方法が混ざり合った表現なのである。銅版画と点字をミックスさせた作品もおもしろい。この作品の鑑賞方法は、点によって描かれた風景や事物を見ることと、作品の突部に触りながら点字として読むことである。このことは触ってはいけないという絵画のタブーを破っているばかりか、触らなくてはわからないという逆説も生んでいる。さらに目の見えない人にも絵画を楽しんでもらうことができる現代的な作品であると同時に、視覚や触覚が渾然一体となった原始的な芸術作品の要素も持っている。
    加茂は点在する既成の伝達技術を見つめ直し、組み合わせて新たな価値の創出を目指している。つまり、多様になったコミュニケーションのあり方を、絵画や立体というバインダーでまとめ上げ、違った価値観として提示しようというわけだ。それこそが「日常の変換」ということなのだろう。加茂の作品は、美術によるコミュニケーションに対しての小さな冒険なのだ。

  •     「加茂茜展を振り返って」   宇フォーラム美術館館長 平 松  朝 彦                   
    情報化社会の中で人々は生きている。今回はコミュニケーションをテーマとした展覧会である。言葉は音であり目に見えない。また電波はさらに目で見えないばかりか耳でも聞くことができない。我々は日常、スマホ、SNSで情報を得ているもののそれは真の情報なのか。マスメディアの情報の多くは広告であり、一方その対極のSNSの情報は極めてマイナーで私小説的な情報である。さらにそうした情報時代の一方、目が見えない、耳が聞こえない人々がいる。そして彼らの目に見えるように手話が、そして皮膚で感じるように点字がある。美術はアナログの目で見るものだが、点字や手話は美術化、視覚化できるのか。誰も考えなかったことを考え、作品にする。今回の作品群は無から有を作りだしたといえよう。今回の試みは様々あるが、驚くべきことにそれらは見事に作品化されている。そのことは 森岡美喜さんの秀逸な詩のコラボレーションともなっている。(森岡さんはレセプションパーティーで料理まで作られた。)様々の人々が集まって今回の展覧会が実行された。
    さらに今回作者は単純に作品をつくっただけではなく、展示会場の空間を考え、様々の展示の提案までしている。展示説明はあらたなグラフィックのカッティングによるもので先駆的である。結果として展示、展示空間の質も相当に高いものとなったがそれらを含めて作者の一つの才能でもある。今回の展覧会を誰かが、大学4年の回顧展、と呼んだ。新たな時代のアーチストといえるのかもしれないが器用なだけでなく、これからも新たなファインアートを作るべく挑戦を続けてほしい。



  •     デザインフェスタギャラリー原宿 高 橋  慶 好

  • 思いというものは、そうそう他人には伝わらない。素直に情報を扱うことができない私たちは、「ありがとう」という感謝の意にさえ傷付いてしまうことがある。全ては情報の集積であり、意思疎通は情報のやり取りである。私たちは日常的に情報によって思考や感情までも左右される。
    本展示は、膨大な情報の海に飲み込まれないよう、抗うさまを鑑賞し、その結果を体験する場である。既に不透明になってしまった存在に形を与えることで、加茂は鑑賞者に対して「気付き」と「思考」を与える。点字、手話、電子信号。幾多の手段をもってしても手に負えない、厄介な生き物同士を繋ぐ為に。
    また不自由さを逆手に取り、美術作品に仕上げる一面からは、作家としての強かさが伺えるはずだ。



  •    「砂の宮殿」   森 岡 美 喜

    顔のない人々が目の前を行進していく
    風よけの白いマントと奇妙な赤い三角帽子を身に纏い
    石壁のアーチがそびえる宮殿を目指して
    驢馬を伴い粛々と そう、粛々と
    フレスコ画のように剥落していくこの世界を
    それはまるで、う、あ、(ヴュジャデ、ヴュジャデ)
    砂が目を刺し笑って去ってゆく
    痛みをこらえて薄く瞼を開き地図に目を凝らしても
    この国はどこにも見当たらない
    おそらく歴史書を紐解いても同じことになるだろう
    (ヴュジャデ ヴュジャデ
       ヴュ・ジャ・デ、、、、、、)
    人々の声がちぎれていくように風に乗り
    隣国との境を流れる河を越え
    砂に混ざって再び降り積もってゆく
    「痛みには、目を瞑れ
      渇くなら、唾を飲め」
    旅先では注意深くいなければならない
    口を開けて人々を誘う世界にひとたび足を踏み入れれば
    誰もがそれ以前の記憶を失ってしまうのだから
    顔のない人々は粛々と進み続ける
    砂に目を痛めることもなければ
    口の中をざらつかせることもない
    ただ、ヴュジャデ、ヴュジャデ、の音だけが
    空気を切り裂き傷跡をつけて飛んで行く

  •  1 サイン ランゲージ フラワー「Sign Language Flower -手話花-」
  •    制作:2014年
       サイズ:500×500×1200mm
       材料:フィラメント
       コメント:言葉をプレゼントする

  •  2  点字「点字Drawing -砂の宮殿-」
  •    制作:2015年
        サイズ:360×240mm
       材料:銅版画紙
       コメント:触覚で見る絵を描く

  •  3  バーコード「直線の言葉 -Bar cord-」
  •    制作:2012~2015年
       サイズ:1820×910mm、910×1820mm、900×1300mm、910×910mm
       材料:アクリル板、印刷紙、ペン
       コメント:バーコードの言語で絵を描く

  •  4 ピアニスト「Pianist」
  •    制作:2015年
       サイズ:1820×450mm
       材料:石膏
       コメント:ピアノ演奏を 聴覚 触覚 視覚 に置き換える

  •  5 言葉を和える
  •    制作:2015年
       サイズ:250×250mm
       材料:皿、食材
       コメント:“言葉”という形の印象の強さに着目する
  •  6 襖「襖Drawing」
  •    制作:2015年
       サイズ:1700×810mm×16
       材料:襖紙、専用取手
       コメント:既定の位置から1mmずらせばそれはアートなのか(極論)
  •  7 モールス
  •  「Sky Tree」
        制作:2012年
        サイズ:1620×1303mm
        材料:キャンバス、鉛筆、メディウム
        コメント:モールス信号の記号体で絵を描く

  •  「Tokyo Tower」
        制作:2015年
        サイズ:1620×1303mm
        材料:キャンバス、鉛筆、メディウム
        コメント:モールス信号の記号体で絵を描く

  •    加茂 茜 プロフィール

    1991年 静岡出身

    2009年  佐藤太清賞公募 入選
     
    2010年  常葉学園菊川高等学校 美術デザイン科卒業

    2012年  多摩美術大学 絵画学科入学
           「お寺でやってみ展」(妙見宮東光院)
           「SWITCH」デザインフェスタギャラリー原宿常設

    2013年  多摩美術大学 ブラシアート大作グループ制作 ファインアート賞
           「Square7」グルーブ展(フリュウギャラリー)

    2014年  アタミアートウィーク参加
            「触覚・ふれあい美術展」(ギャラリースペースM)
            「36.8℃」グルーブ展(ギャラリー渓)

























































































































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