- ・アーチストコメント
- 最初の「遺物」制作から20年の歳月が流れてしまいました。
今回初めて、「遺物」立体20点(世紀末版)とあわせて、新たに「遺物」平面20点(平成版)を完成し同時展示します。
生命と物質をテーマとした労作の一つになります。彼らは単なる歴史上の人物ではなく、現代の高速デジタル化社会の中で、すぐに色あせて薄れてしまう我々の記憶の死を暗示しています。
つい最近亡くなった人物ですら、たちまち記録上の遺物と化してしまう風潮を映し出しているのです。
便利さと引き換えに人間がデジタル化され、人工知能はますます人間に近くなって来ています。実在性、身体性を伴わない情報や記憶と我々はどう対峙していくのでしょうか。
- 物のアルケー(根源)に侵入して、内側から物を解体し再び組み立て直すという脱構築的な解体と再構築が柳井の制作の基本的な方法なのだ。
一つは、アルケーへと肉薄することによって個人的な意図や感覚といった「作者性」から解放されるということが重要だ。もう一つは、内側からの解体と再構築によって物と世界の埋もれていた記憶、抑圧されて潜在化せざるをえなくなっていた情念とを発掘することができるようになったのだということがわかる。そのことによって、柳井はわたしたちに物と世界を認識するあらたな枠組みを提示することが可能になったのだ。(中略)
いまは、まだ認識できない物や世界、それが未来だ。柳井嗣雄は潜在している未来の予兆を植物繊維に痕跡化しているのかもしれない。生と死が共存しうるように、記憶と未来も共存できるのかもしれない。植物繊維を解体し織り上げながら、そこに光と水、大気と大地などを組み込んで、多数多様な星座を練り上げていく。柳井は感覚できる物質を精神的な非物質に変容させる錬金術師、そして、作品は死の淵から帰還するオルフェウスやイザナギを連想させないだろうか。
早見 尭(美術評論家)
- 柳井嗣雄(美術家、和紙造形)略歴
1953年山口県生まれ。1977年創形美術学校版画科卒業する。1978-80年スタンリー・W・へイターに師事(アトリエ17、パリ)。‘80年より銅版画家としてスタート。 一方で、’89年まで銅版画刷り師として活動する。2008年まで「ふるさと工房五日市」和紙工房主任、2006-11年くにたち文化・スポーツ振興財団理事、2002-19年女子美術大学講師として勤務。
版画用紙を自ら漉き始めたのをきっかけに1985年より紙の作品制作、ペーパーワークを開始。物の在り様を、風化して消えてゆく物質的存在と、記憶やイメージとして現れる精神的存在とし、「物質と生命の記憶」をテーマにしたインスタレーション作品を特長とする。現在は飯能市でPAS和紙アートスタジオ主宰。楮栽培から原料作り、様々なぺ-パーワーク技法の研究、開発、指導を行う。
「日本国際美術展」佳作賞(‘90年)、「現代美術今立紙展」優秀質(’86,‘89年)、大賞(’90年)受賞。「白州・夏フェスティバル」、「和紙のかたち」(練馬区立美術館)、「紙と現代美術」(イタリア)「第1回アジアパシフィックトリエンナーレ」(オーストラリア)、「Nature-素材と表象」(イスラエル)、「国際ペーパーアート&シンポジウム」(台湾)「Paper Object Festival」(ラトビア)、「D’ un bord a I’ autre,Traverser la surface」(フランス)などに出品。ギャラリー21+葉、ギャラリーaMなどで個展多数開催。
- アーティストトーク:8月24日(土) 17:00~
パフォーマンス :9月 7日(土) 18:00~ 三浦 宏予(ダンス)、笠松 泰洋(音楽)
:9月14日(土) 18:00~ 木村 由(ダンス)、森重 靖宗(チェロ)
- 「遺物- Albert Einstein」2018年
- 2019年8月22日(木)~9月15日 (日)
13:00~18:00(月・火・水曜日休館)