2021/3月4日(木)~ 3月21日(日)
永田 砂知子 波紋音
徳田 ガン
舞踏パフォーマンス
母の胎内で聴こえる音がする 触れるとは生命記憶の体積である
死んだ母のお焼香の姿、、それは舞踏 死んでいった者たちへの悔恨顔の踊り
(徳田ガン イメージの言葉より)
即興パフォーマンス 中西舞(ダンス)、程波(テノール)、空豆(舞踏)
舞踏「臍の緒を断ちて宇宙の玉の緒に継ぐ」
徳田 ガン : 永田 砂知子
柳井 嗣雄「Mask 2020」
和紙、染料、農業用シート
柳井 嗣雄「失われた身体 - 亡者の着物」 インスタレーション
和紙、染料、寒冷紗、農業用シート
展覧会の様子が動画でご覧いただけます 。
「Aïdée Bernard「Water words 水の言葉」
インスタレーション、ビデオ、紙(植物繊維)
Aïdée Bernard
「Word leaf 言の葉」
紙(植物繊維)、写真
Aïdée Bernard
「A world apart 離れた世界」
紙(植物繊維)
Aïdée Bernard
「The shadow of light 光の影」
3点 紙(植物繊維)、写真
左から 柳井 嗣雄 空豆 平松 朝彦 中西 舞 程波
柳井 嗣雄
程波 テノール
中西 舞 空豆 即興パフォーマンス
中西 舞 即興パフォーマンス
「断面・線 (部分)」
※ 展覧会の様子がパノラマでご覧になれます
アイデー・ベルナール (Aïdée Bernard) 展
柳 井 嗣 雄 展
作者コメント ・柳井 嗣雄
失われた身体 亡者の着物
昨年お盆の時期に、秋田県の西馬音内(にしもない)を訪ねた。
西馬音内盆踊りは日本三大盆踊りの一つだが、残念ながらコロナウイルス 感染症のため中止になってしまった。この盆踊りは別名「亡者踊り」とも呼ばれていて、特に興味深いのは黒子のような黒頭巾を被って踊る場面。
昔は時間制限もなく踊り続けて踊り手はトランス状態になったという。この黒頭巾(彦佐頭巾)を糸口にして今回の「亡者の着物」が生まれた。
もともと、舞踏の創始者、土方巽の精霊に捧げるつもりであったが、新コロナウイルスの蔓延により世界中で死者数が増加する中、着物を作り続けていくうちに亡くなった人々の死を悼むというふうに私の意識が変化して来た。
失われた身体と、それが関わった環境(社会)との接点に在るものとしてこの着物を制作した。さまざまな記憶や情念がその内と外の境界で見えて来るように願いながら。
コロナ時代と「亡者踊り」、生者と亡者、十字架に掛けられた黒い衣服が、稲妻のように一本の線に繋がった。
人は遅かれ早かれ死と向かい合わなければいけない。我々はみんな生と死のあわいで生活しているのだ。
様々な環境の変化や厳しい現実の中を生き抜いてきた人類の力を信じることにしよう。
今回オープニングイベントでは、舞踏家の徳田ガンさんと一緒に海外でも公演活躍されている永田砂知子さんによる波紋音なるオリジナルの楽器演奏が約30分行われた。
柳井さんの着物を着て徳田さんには見事な舞踏を披露していただいたのだが、この衣装と場の力もあり緊張感のある渾身の演技と演奏。それぞれコアなファンが集い密度の高い時間を過ごした。
徳田さんは小学校時代に平松輝子に教わったという奇遇は後で知った。しかしさらにハプニングは続く。最終日の終了まじかの5時10分。先日来られた上田遥さんの紹介でダンスの中西舞さんとテノール歌手の程波さんが駆けつけた。
中西さんは会場に入ると感嘆の声を上げ、作者に着物を下ろしてもらい踊り出したのだ。
さらに彼女は奥の部屋に行くと作品の中に入り踊る。即興なのにすべてが計算されたように見事な流れはまさに舞姫。
そこにたまたま居合わせた舞踏の空豆さんも加わり即興で息の合ったパフォーマンス。
さらに歓談の後、テノール歌手の程波さんはあいさつ代わりに「オーソレミオ」を熱唱。すばらしい才人であり長年日中文化友好の活動をされている大御所。すべてがつながった出会い。今回多くの踊り関係の方々が訪れ、まさに作品の力と魅力が作り出した奇跡の時間。
宇フォーラム美術館 館長 平松 朝彦
柳井嗣雄氏の作品とは対照的に極めて薄く繊細なのはアイデーさんの作品。紙が造られるとき葉は煮られて繊維、葉脈だけとなる。葉脈という自然の造形は芸術作品そのものだ。
まず中央の大作「Water words 水の言葉」。正面に約長さ10m位の和紙が天にのぼるように渦を巻いている。
福井県の大瀧神社(別名紙祖神岡太神社)には日本でただ一つ、川上御前という紙の神様が祀られている。その大瀧神社の滝でアイデーさんはKAWAKAMIGOZENなる10分のビデオを撮った。それは川上御前になった全裸のパフォーマンスだが動きは舞踏である。
舞踏はBUTOHとして世界的なもの。アイデーさんはかつて来日時に著名な大野一雄の元を尋ねたそうだ。
さらに滝の音も会場に流れる。紙を作る時に大量の水は欠かせない。
平松輝子はかつて「水神讃歌」なる大型のインスタレーションを構築したが水は神聖な物。
この立体作品に前述のビデオ映像が投影されるというまったく新しい発想だ。その他の平面作品は三つ。
一つ目は約4mの巾に多くの作品をつなげた「A world apart 離れた世界」が展示。
二つ目の「The shadow of light 光の影」は楮の木の枝につるされた薄い和紙の作品が3点。それらには自身の影が描かれている。
三つ目の作品「Word leaf 言の葉」は、紙を漉き、まだ乾く前にフランス語で詩を描いたもの。
結果としてその部分は紙が抜けて、光を透過し光と陰ができる。同時に詩という作品でもある。
アイデーさんは平面作家だが、今回は立体作家となり、自作映像とともにパフォーマーで詩人でもあった。
この作品は写真やパノラマでは形や細部がわかりにくいので動画もアップすることにした。
さらに展覧会中には様々のパフォーマンスが行われ、これからはインターネットで美術を見る時代になったことを感じた。
モンペリエ美術学校卒。ヨーロッパ、日本等のアーチストレジデンスに参加して世界中で作品を展示。
2003年より植物を紙にする技術に挑んでいる。軽さと脆さにあふれた半透明の立体作品、躍動するインスタレーションが特徴。ペーパーアートに関する出版もある。
今回残念ながら、新コロナで来日はかなわなかった。
宇フォーラム美術館 館長 平松 朝彦
まずは柳井さんの「失われた身体 - 亡者の着物」。
以前の当館での展覧会の時、写真で拝見した飯能のアトリエは杉林の中。自ら栽培した楮の木を伐り、煮て紙を漉くことから自分で行う。今回は強度のあるこんにゃく糊を使い、人工着色剤で着色した。さらに裏地には寒冷紗を使い世界に一つの着物に仕立てた。
厚手の紙で着物を仕立てるのは大変で何本もミシンの針を折ったという。そうした物語プロセスも作者にとってアート。
会場の着物作品は天井から吊り下げられ3列に並んだ着物が飛び回る。中央は大きな和紙製で一番奥の作品は4mもあり壮観だ。
ドイツのアンゼルム・キーファーは草などを使い巨大なオブジェを作ったがそれを想起させる。左右の列は黒く焼いた農業用の日よけ養生シートを使用したもので展示会場の上部を覆う。
亡者とは、死者や、死んだあと冥途に行けない人のことを指す。秋田の西馬音内盆踊りは亡者祭りと呼ばれる。
そもそも先祖と一緒に踊るのが盆踊りだ。そしてこの着物は死者の「死に装束」だそうだ。
創形美術学校版画科卒後、1978年に渡仏しスタンリー・ヘイタ―(アトリエ17、パリ)に師事。
物質の在り様を、風化して消えてゆく物質的存在と、記憶やイメージとして現れる精神的存在として「物質と生命の記憶」をテーマとしたインスタレーションをしている。
飯能市で楮を栽培し和紙作りを始め、技法の研究、開発、指導を行っている。
当館でも人物像などのインスタレーションの展覧会をした。
野生の紙 - 水の言葉
越前で紙の神様、川上御前が祀られている大瀧神社の1300周年を記念して、「今立アートフィールド」というイベントがあり、私は2019年に招待されました。
越前の奥に位置する大滝は、紙漉き職人の里です。製紙に不可欠な水は、私のテーマでした。私は越前の人々に紙漉きの技を伝える「紙祖神」川上御前の伝説にインスピレーションを受けました。
言い伝えによると、この女神は水を介して紙漉きの秘密を伝える存在であり、また生命の根源でもあります。水は力強さと繊細さを併せ持っています。水は地球上に生命を誕生させ、地上の最初の住人である植物を誕生させました。
私は紙を作るために地元の植物を採取しました。米、すすき、笹、葛、お茶などの野生のハーブに出会いました。それらは私たちの惑星の大気を呼吸可能にした植物たちであり、地球の起源、古代とのつながりを実感させてくれる私にとっての鏡なのです。
このインスタレーション「野生の紙-水の言葉」で私が提案する水へのオマ ージュは、官能的で繊細なだけでなく、生命的で強靭な要素をも呼び起こします。
水は女性的であり、新たな生命を生み出すことができる一方で、すべてを食い尽くす荒々しい女神のように破壊的で、私たちを完全に打ちのめすこともあります。
私の願いは、理性と感情が対立するのではなく、共同して人生を豊かなものにしていく創造の世界を生み出すこと、私たちの感覚と感性をもっと信頼することです。
感覚器官を通して真に自分自身であるために私は創造します。