岩出まゆみ、堂免和実 展の記録

岩出 まゆみ ・ 堂免 和実 

 (Beyond the interaction 対話の向こうに)

 

2020/10月30日(金)~11月15日(日)

Stripes U20-4 (180×270)

Stripes T18-3  (60×150)

Stripes U20-3  (270×60)

空とのあいだ

作品ディテール

Stripes U20-6  (120×120)

Stripes U20-5 (180×270)

左よりStripesU20-2 及び 1 (各270×60)

「 空 と のあ いだ 」

堂 免 和 実 展

岩出 まゆみ 展

   岩出 まゆみ、堂免 和実 展 (Beyond the interaction)


 この会場は天井が高くボリュームが大きいのでここで発表される方は皆、どのように展示するか頭を悩ませるようだ。
 今回お二人とも、この会場の空間に合わせて作られて展示された。
単なる作品の展示ではなく、この限定された空間で成り立つという意味で「空間芸術」なのだ。

※ 展覧会(堂 免 和 実 展)の様子がパノラマでご覧になれます

※ 展覧会(岩出 まゆみ 展)の様子がパノラマでご覧になれます























 

 

 

       岩出まゆみ 堂免和実 展
          Beyond the interaction ー 対話の向こうに
                            八 覚 正 大

 

 

まず、二階の第一室は岩出まゆみさんの作品だ。ストライプ、幾何学模様、たしかに。ブリジット・ライリーとか、二紀和太留の幾何学抽象作品もよぎり浮かぶ。でも静かでどこか控えめな感じ。落ち着いていて、あまり主張をしてこない色調。縦のストライプ、横のそれ、そして円。線対称、点対称な感覚……形、色調から、STRIPES U20-6(緑、紫、青系) それから、ちょっと陸上競技場のトラックを連想させるSTRIPES U20-4 にどこか惹かれた。
ただ何度か見返すうちに、安定した変わらない幾何学模様に見えたそれらが、グラデーションという「動き」を持っていたり、点対称とみせて実はストライプの順番や円弧も微妙にずれているのに、〈気が付いた〉、おや。
だからといって、「発見」などと構えてみる必要もなく、ストライプの色相に目が行くけれど、随所に現れる円もけっして控えめではない、むしろそこへ目を届かせる人をゆっくり待っているような……。
規律を守り混乱や騒々しさのない、でも微妙に順番を変え、ズレているストライプ、同じように見えてズラされた円弧たち、命の長いスパンをゆったりと孕むような、何かが提示されているんだ、たぶん。
永遠に変わらないものなどない。そして似ているようにみえても実は違っている。個性・オリジナリティ……が強調されるアートが、実は画一化に向かうこともある。逆に同一に見えて、異化へのベクトルを密かに孕んだ作品を見逃さない目を、持ちたいもんだと、気づかせてくれるような……作品群。


奥の空間は、堂免和実さんの空間作品。三十ほどの白いボードに、一見水芭蕉のような形の(焼き鳥ならぬエビの天ぷらを刺す串に紙を巻いたそうな?)、乗組員らしき形がそれぞれ何十本かずつ刺されている。それが天井からの糸で吊るされて、空中を浮遊しているような感じだ。この空間では、今まで様々な絵画やインスタレーションその他を観て来たものだが、今回はそのどれとも異なる感覚が湧いてきた。
ある意味白一色の世界で、中央の床に白い岩のような、白熊のような塊があり、空中に浮遊するボード群は氷片のようでもあり、船のようでもあり、それらに光が当たり非日常の異空間に足を踏み入れた気分だ。
今回、写真を撮らせて頂く中で、シャッターを切る度に、その世界の様相がけっこう大きく変化することに気づかせられた。我々は、いつもある角度からしか物を観れない、なのに総体を把握できるのは短期記憶によってそれを脳に構成するからだ。彫刻などを見る時、実はそうやっているのだ。
しかし、見る角度でイメージが変容するこのインスタレーションは、角度を変える度にそれが拡がっていく……そんな印象を受けた。さらに光が当たり、宇フォーラムの壁にできた影が白い世界と対照的な、「黒の船と乗組員たち」を連想させ、モノクロの世界の豊饒さを見直させる感もあった。
形の抽象性、モノクロの世界、光……それが一見メルヘン的な感覚を超えて、集合体としての人間集団や、空間における見え方の変容を喚起させる刺激的作品と感じられた。


 

       堂免 作品について     宇フォーラム美術館  館 長 平松 朝彦

 

 

堂免さんの奥の部屋は、一転してインスタレーションだ。展示室の中で天井からテグス糸で吊られた30以上の船が舞う。その船というのは具体的にはポリエチレンの乳白色な船に、数多くのトレーシングペーパーで作られた人物を模したものが載る。作るのも展示するのも時間がかかった力作。下は海なのか。白い波のような物体。また横からライトを当てたため無数のテグス糸はきらきらと光るがそれは雨を表すという。そして壁に人の乗った舟の影が浮き上がり、それぞれ壁との距離に差があるため、壁から遠くのものは影がぼやけて、独特の立体感のある壮大な影絵を創り出す。
それはこの会場だけの一期一会。その真ん中でパノラマを撮影するとまるで巨大台風に巻き込まれたかのように空に多くの舟が舞っている場面の時間を一瞬止めたような不思議な光景が生まれる。
作品の周りを歩くと、光景は変わっていく。あらためて船に乗った人々を見る。船に乗っているのか、乗せられているのか、これは揺れ動く運命共同体の社会の縮図なのか。そしてその行き先の未来は。


 

       岩出 作品について     宇フォーラム美術館  館 長 平松 朝彦

 

 

岩出さんの作品の特徴は直線と円。しかし、なぜ直線と円なのか。直線と円は、論理的、ロジカルな形。美術の話では、かつて1930年のパリで「円と正方形」なるグループがあった。その少し前の1920年代のル・コルビュジェやフェルナン・レジェたちによるポストキュビストによる機械的アプローチがあったが、直線と円は機械の時代、モダンデザインの時代の象徴でもあった。コルビュジェは建築家でありレジェも設計製図の仕事をしていて直線と円に魅せられたといえなくもない。
レジェの弟子だった坂田一男は帰国後AGOを設立して直線と円の手法を弟子に伝えた。その弟子の一人が当館の設立者の一人の二紀和太留で手法も受け継がれている。しかし日本では機械的なアプローチは当時の日本美術界と対立し、坂田らの機械的抽象絵画は美術界から反発されたように思う。
一方、世界の絵画の波としてはその後、ポストペインタリーアブストラクション、ハードエッジというスタイルも生まれた。いずれにしろ直線と円は見る人にとってクールな抽象として、終わることのない一つの永遠のテーマなのだろう。そして岩出さんの作品もその延長線上にある。坂田一男師は何というだろうか興味深い。
今回の岩出さんの作品の手法の特徴は二つ。まずマスキングテープを使わず、溝引き定規にガラス棒を使い面相筆で描かれている繊細で手間がかかる手法。
次にキャンバスの表には描かれず、裏の麻布にアクリルで描かれているということ。いわゆる直接色をつけるペイントというより麻の繊維を染めることになる。
今回、部分的に円形で白色に塗られた下地部分があり、その上に描かれた色はその下地が透けるのか一段明るくなっている。その結果、その部分の空色、黄色がきれいに発色し、発光するイメージが生まれ、従来とは別の作品のようになったように思う。
さらに微妙な「和」の色数が多く、それらの組み合わせにより複雑な趣きと調和が生まれたことにより、その他の画家たちとは差別化がされている。
この岩出世界は良い意味で「和風」であり本来のインターナショナルなアートなのだ。(インターナショナルとは本来、世界という意味であり無国籍という意味ではない。)