美の精鋭たち 2022 vol.6 –十花の毒-の記録

     美 の 精 鋭 た ち 2022 vol.6
       ~ 十花の 毒 ~
   

2022/7月7日(木)~ 7月22日(日)

                     

      


      柳 早苗 Sanae YANAGI :「ときを縫う」

        (240×160cm)(木の枝(桜、楢、柳、梅、モチノキ、水木、松、紐(リリアン、毛糸))


美術館の入り口の吹き抜けに、多くの色の糸が縫われて繋がれた細い枝がたくさん吊り下げられている。オブジェであると同時にインスタレーションである。
入る時は、意外に気が付かず、帰る時に改めて、あっと気が付かれる人もいる。
「時の繋がりや世代を超えて受け繋がれることを木と紐で表現している。伐採された木桜、楢、柳、梅、モチノキ、水木、松、樟などを再生させるために、縫い続けることによって、時空を超え、全ての存在が繋がることを目指している 。(作者)」



   美の精鋭たち Vol.6 (十花の毒) 展について  
                        宇フォーラム美術館 館長 平 松 朝 彦

 

今回の10人の作家は全員女性「花」である。十花の毒のネーミングを決めた浪川恵美氏によるとジェンダーフリーも踏まえているという。
当館の設立者である大正生まれの前衛画家、平松輝子は戦後もなお男女差別が当たり前の美術界で活動し、アメリカ、ドイツに行ったのもその影響がないとは思わない。
それから50年以上たつ。いまやかつての女流作家展ではない今回の作品のスケール、大胆さ、強さに、展覧会を見に来た男性は顔色を失ったのではないか。
浪川氏は、この展示空間を踏まえて作家を人選したという。
振り返れば当館設立者の平松輝子は巨大な作品を作り続け、わたしはその展示をイメージしてこの美術館を構想した。インスタレーションは無論のこと、美術と空間の関係は重要である。
また、作品は大きければ良いというわけではない。美はディテールにこそ宿るといわれる。そのディテールに神経が行き届いているのも女性画家の特徴かもしれない。大きな絵は印刷写真にするとまったくディテールがわからなくなるので部分の写真を載せた。
改めて今回の「十花の毒展」は、男性アーティストにたいする挑戦状、或いは勝利宣言 ?
今回の展覧会はたしかに毒だったかもしれない。

      豊崎 旺子 Ohko TOYOSAKI :「Flowers」

        (120×360cm)(ベニヤ板、オイルミックス)


テーマは花だが、「具象と抽象を両立させたい(作者)」という。
作品はべニヤ板下地で、表面はかなりの様々の凹凸がコラージュされ、表面の絵具は、クラッキング(ひび割れ)を生じさせている。
一部の緑色は植物を思わせるものの、特段、花を感じさせない。乾燥し死んでしまった花なのか。私は個人的に6mの深さの泥炭層から発掘され、約2000年前の蓮の種が見事花を咲かせた泥炭層の大賀蓮をイメージした。
また、大胆な表面のコラージュは唐突かもしれないが、尾形光琳の八橋蒔絵螺鈿硯箱を思わせる。

      達 和子 Kazuko DATE :「孵化」

        (182×364cm)(パネルにアクリル、油彩、鉛筆)


この作品は、今回のジェンダーの展覧会のテーマにふさわしいフェミニズム感の強いものかもしれない。
作者の取り組むテーマは、男性にはやや縁の遠い「孵化」だ。以前当館で個展をされて大作を展示された時と比べると今回大きさは小さいが、自作による下地のシナベニヤ板を大胆に切ったりする独特の表現が見られる。そして大胆な構図、勢いのある筆趣も見どころだ。


      須惠 朋子 TOMOKO SUE : 「神の島を想う」

        (192×521cm)(高知麻紙、岩絵の具、樹脂膠)


題幅約5.2mの壮大な作品。沖縄の久高島を飛行機から俯瞰した航空写真のような作品。
部分的に盛り上がっているが、表面は自然の岩絵の具。何より海の色、空の色の青が息をのむようにきれいであり、自然美を色で表した作品。
地球にたいする作者の想いはよく伝わる。

      柴田 知佳子 Chikako SHIBATA : 「BE-Ⅱ」「BE-Ⅲ」

        (各260×200cm)(顔料、アクリル樹脂)


題名のBEとは存在の意味。作家はかつての抽象表現主義に魅かれるという。240号の作品というサイズといいダイナミックさといいまさにアメリカンアートのそれらを想起させる。
よく見るとキャンパスにただ絵具を塗りたくったものではなく、極めて薄くきめの細かい綿布に透明感のある色が美しくしみ込んでいることがディテールでわかる。
重層的な色はかつてのステイニング(シミ派)といわれるフランケンサーラーたちを思い起こさせる。抽象表現主義は過去のものではなく、まだ可能性があることをしめしている。

      笹井 祐子 Yuko SASAI : 「Jardin」

        (480×420cm)(リノカット、アテマ紙)


展示室の幅寸法に合わせた巨大なインスタレーション作品である。ほぼ天井から床に吊り下げられていて、床にも作品が滝のように垂れている。
よく見るとその作品は多くの穴の開いたメキシコのアテマ紙が繋げられ、版画がされている。
版画独特の明確なエッジがあり、おそらく世界最大の版画だろう。人為でありながら野生の植物を思わせる大胆な模様であり、表現のテーマとする生命力に満ちたその曲線に魅せられる。

      佐々 順子 Junko SASA :「宇」「Interlocking」

        (300×160cm)(シフォン布、モノプリント、染色)


天井から二つの半透明の大きな布(シフォン布)が垂れ下がっている。
作者は国展に参加している版画作家で、その布にはモノトーンで版画がされている。
透過光により作品は変わってみえるという面白さも感じられる。薄くて軽やかな布素材は、人の起こす風で動く。作品の裏に回ることができ、絵の裏が見える透過の変化はそのまま作品の変化となる。

      坂内 美和子 Miwako SAKAUCHI :「自然の祭壇シリーズ」

     (1600×630×5mm)×2枚、(1320×630×5mm)×2枚、「界の狭間シリーズ」(925×635×3mm)
      (シナベニヤ合板、アクリル、アルキド樹脂、和紙、段ボール、他)


段ボールを使い左右が内側に屏風のように曲げられ床に置かれた絵画作品であるが、インスタレーションとも呼べるだろう。
よく見ると段ボールは破かれ、絵もバイオレンス的でかつてのニューペインティングのようだ。
描かれている中に孔雀や犬の形がある。犬はともかく孔雀は近世美術に見受けられるモチーフであり、かつカラフルな色彩も、屏風となじみがいい。それはまた作者によると「自然の祭壇」でもある。


      熊谷 美奈子 Minako KUMAGAI : 「Rust2017-01」

       可変(245×55×55cm)、Paper box2022-01 (80×80×15cm) (ゴールデンボード (厚紙)
       自作手漉き和紙、アクリル絵具、柿渋、樹脂系塗料)

会場の階段の上がった入口の壁面に絵のようにかけられた四角の立体「Paperbox」は半分大理石で半分金属のように見える。重量のあるはずのものが壁に掛けられているという不思議な感覚。
さらに入り口に屹立している2.4mのミサイルの弾頭状の物体に驚く。錆に覆われ金属に見えることもあり思わず戦争をテーマとしたものかと身構える。よく見ると上下が分割していて、すぐ脇にはやや小型のものが、ただ横たわっている。
さらに奥の部屋の入口にも同様のものが横たわっている。こちらは錆びていないが金属の光沢がある。
説明文を読むと戦争をテーマとしたものではないことがわかる。では何なのか。大理石と金属の幾何学的作品はいずれも和紙による作品でフェイク。世の中の、見た目ではわからない様々な意外性がテーマだという。


 

      acubi. xxx : 「left ear_ a/l bg 可変」

     (写真と布によるインスタレーション-約4m×1m)(ターポリン インクジェットプリント 紙他)

高い天井から吊るされた、商業広告のように巨大な耳の写真。さらに壁、床にも小さいが同様の写真がちりばめられていて全体としてインスタレーションとなっている。
基本的にモノクロだが大型の作品のイヤリングだけ金色、また小さな写真は赤い糸で繋がれている。
作者は耳の形のエロティズムに注目したというが、(当館にあるマンレイの写真と似ていて)少しマンレイっぽい。まさに花の毒 ? か。
私は個人的にこのイヤリングに注目してしまった。縄文時代からイヤリングは存在し、女性はイヤリングをしていたのだという。つまり女性の耳、イヤリングは縄文時代から現代までつながっている。

         コメント               Curator  浪 川 恵 美


2016年の晩冬に横浜において船出した本展は、「抽象画の今を伝える」意図を携えstartし、その年の企画趣旨によって空間を選択し藤沢、横浜、川口と場所を変えて、2022年 vol,6は、緑豊かな武蔵野の国立に場を移しての開催となりました。
21世紀を迎え、今世紀は多くの社会問題にとどまらず新型Coronaによる生命の危機・パンデミックなど、様々な影響を受けて世の中が大きく様変わりしました。
行動制限も、都市部集中の生き方から郊外や地方に向う意識へと変化し、Zoomなどのインターネットを使用したコミュニケーションを求められる時代へと変貌して来ました。
そのような事を踏まえて、館長との出会いから凡そ5年が経った2022年。
本展も通過点となるvol.6は、過去の提案に甘んじることなく新たな思考の企てを試みようと思考した次第です。
ここ最近、巷で飛び交うジェンダーフリーを多角的に捉え、全く違う時代に青春期を過ごした10人の女性アーティストの個々がもつ哲学や思想が、意識と無意識の狭間のなかで生れ出た作品を徹して世の中の不条理の一端と対峙する世界を共有しながら、更に幅広く奥深いArtの世界において、美と自由を表現する女性の素晴らしさと「新しいアート」を提案することを意欲的に展開している「場と空間」において伝えたいと考えました。
不穏な空気感が漂う時だからこそ、大地に根をはる「おんな」というネーミングである輝く人たちの底力からの発信をキャッチし、深く考える切掛けとなることを祈って、この12日間、アーティストと共にワクワク、ドキドキしましたことをご報告申し上げます。
猛暑の日々のなか遠方からのご来場を賜りました皆様。エールをお送り下さった皆様。
この場をおかりしてすべての関係者に心よりお礼申し上げます。

 


          16日(土) 15:00~ アコーディオンライブ  岩城 里江子


出展者
    acubi. xxx  熊谷 美奈子  坂内 美和子  佐々 順子  笹井 祐子
    柴田 知佳子  須惠 朋子   達 和子    豊崎 旺子  柳 早苗


 

 「 会場の様子 」

※ 展覧会の様子がパノラマでご覧になれます