「生命の範疇」 上樂 博之 展の記録

      

 「生 命 の 範 疇」   上樂 博之 展

                     

  •      「 生 命 の 範 疇 」     上 樂 博 之
  •  生き方の中心にアニミズムを据えていた時代、岩や木、滝などの自然はただの資源ではなく、生命が息衝く存在の場として人々は認識していたのではないか。
     現代において私達はその認識を忘れ眠ったままです。
     太古に生きた人々と私達の生き方が異なる中でアニミズムの要素が現代に通ずるのは光と生命の相互関係だと考え作品を制作しました。
  •  ・線対称作品について

     世界中にある民話や神話の中には多くの聖獣や自然神などの存在が伝えられているが私はそれらを見たことが無く、新たにそのような存在が現代に産み落とされる様を見たい。
     決して荒唐無稽な話などではない。
     日本には岩や滝、大木などの御神体が神社や寺にあり、それらを生命体と定義付け未知の生き物を浮かび上がらせるように以下のルールを用いアプローチしました。

    ① フィルム写真で撮影する。
      加工可能なデジタルではなく写したままの姿を維持するフィルムで撮影し暗室でプリントを行う。
    ② 神社仏閣、修験僧の修行の場のみで撮影。
      そういった場は怪談話や心霊スポットとなっている事が多いが、神秘故に新たの生命と紐付ける事 が出来る。
    ③ 御神体を撮影
      御神体の存在する理由を、新しく作る。
    ④ 撮影には大判カメラ8×10 を使う。
      一般的なフィルムと比べ、写る感じや情報量が豊かである。

     生物の多くは体を線対称になっているものがほとんどです、その為写真を線対称にして浮かび上がらせました。生命の定義の一つにある「自己複製機能を備える」という性質は、線対称の作品創りによって私の中の認識改め『生命の範疇』が広がっていくのを感じた。
     絵画からカメラへと移行しつつあった時代、完璧な自己の複製物を描写する写真を撮られると魂が抜かれると言われていた、写真の中には新たな生命が宿る事は不思議な事でないかも知れません。


     【プロフィール】
  •   1978年生まれ、岐阜県出身、神奈川県在住。
     中央アルプス国立公園内 乗鞍山頂銀嶺荘で4年勤務。
     山荘での生活で体験した山の荒々しさ、美しさを写真に納めたいと思いカメラを始める。
     後に代官山スタジオ、スタジオ玄を経て2007年、フリーカメラマンとして独立


      2011年 國美芸術展 佳作(東京都美術館)
      2011年 草舟 on Earth ( 個展) 神奈川県
      2013年 Life 新潟( 個展) 新潟県
      2016年 コールピット( 個展) 福島県
      2016年 第4回New Nature Photo Award 佳作
      2018年 桜茶屋ギャラリー(グループ展) 徳島県
      2019年 かがわ・山並み芸術祭2019 (塩江美術館)香川県
      2020年 宇フォーラム美術館 ( 個展) 東京都
      2020年 MONSTER Exhibition 2020
      2020年 塩江美術館(二人展)香川県 ※予定


       
  •    上樂博之写真展に寄せて         宇フォーラム美術館館長 平 松 朝 彦

  •  ・エイトバイテン
  •  上樂氏はエイトバイテンの大型カメラを使っている。エイトバイテンというとアンセル・アダムス。だから上樂氏は日本のアンセル・アダムスなのか。
     まず共通点は山を愛しているということ。アダムスは自然環境保護団体のシエラクラブに所属しヨセミテ自然公園の山波をエイトバイテンで撮った。
     上樂氏は岐阜県出身で地元、乗鞍岳の山頂にある銀嶺荘に4年間勤めていた。施設は海抜2700mにあり、天空に暮らす経験はなかなかできるものではない。
     しかし今回の写真は北アルプスではなく、一枚の奈良県を除き、四国、徳島の原生林である。
     アダムスの写真は神々しさを感じさせ多くのファンがいるがそれらには特徴がある。
     ゾーンシステムという露出理論で計算された強いコントラスト。そして乾いた空気感。対照的に上樂氏の写真は湿っている。
     原生林の薄暗い山の中で暗い樹木を撮影する。暗い中、空の光は露出が合わず白くとんでしまうがそれが輝いて見える。
     例えば、DMの岩の写真「Mrの朝」。空や光のあたった岩、滝の水はハレーションを起こしているようににじんだ光の表現。それはまるで水蒸気が光っていて、この世はまるで光輝いているといわんばかり。それはもしかしたらレンズの特性のせいなのか全体がソフトフォーカスレンズのように柔らかい。
     硬派のアダムス、軟派の上樂という対称。

  •  ・山の神
  •  無機物、有機物を問わず霊が宿っているというアニミズムの写真。
     古神道では山、海、川、石などに神が宿るとされ、神がいる場所をご神体とした。
     日本では死者は山中の常世に行って祖霊となり子孫を見守るという信仰もある。
     今回はあの世とこの世の区分けされた入り口(結界)、人が立ち入ってはならない神聖な場所で精霊、地霊を撮ろうという大胆な発想。本当は写真を撮ってはならないのかもしれないが、上樂氏は、入ってはいけない(?)所に行き写真を撮った。
     そして結果は?。誰も歩かずいつしか苔むした石段、すでに緑に飲み込まれ自然に還ろうとしている赤い鳥居。確かにこの四国の深い森は「あの世」であり、行ってはならない場所のようである。
     この地の巨木はすごい。私は屋久島に行って二千年以上といわれる縄文杉を見たがこれらの木も千年は優に超えていよう。
     そしてそれらの写真を対称に配置すると顔が出現する。(写真「Iwawo、ヘンロミチコ」他)これはまさに「山の神」の顔。
     今回、この展覧会の発端は「森を左右対称とすると顔ができる」という発見。写真を見たある人は「モノノケ(怪)」と言ったが、今回の展示で一番インパクトのあるのはこれらの写真ではないか。
     モノノ怪は本来悪霊らしい。また、日本の神は祟りをもたらす恐ろしい存在だった。その顔は不気味で怒りに満ちた恐ろしい顔。もちろんそれは脳の錯視であることは承知の上。人間は顔に魅せられる。

     ・「写真は撮るものではない。つくるものだ」
  •  絵の具やインクを紙やガラスにつけ、対称に合わせてできるデカルコマニーというものがある。
    瀧口修造氏が一時期、その作品をたくさん作ったが、これは写真のデカルコマニー。アンセル・アダムスの「写真は撮るものではない。つくるものだ。」という名言がある。
     そして写真家マン・レイはコラージュして自由に写真を作った。そして今や、写真と絵の境界などなくなっている。自由に写真は作っていい時代になった。これらはまさに作られた写真。
     さらに今回、奥の展示室中央にインスタレーション「オノコロ島」(古事記による日本発祥の島)。白い玉砂利が約85cm四方にまかれ中央には変わった質感の石(珪化木石)が立っている。
     京都龍安寺の石庭は白の玉砂利は海を、石は岩を表すが、これは古事記のいう日本が生まれる世界か。
     そしてその場所に上から垂らした9本のペンダント照明器具によりスポットライトのように光をあてている。会場照明とのバランスで他の写真作品が見えにくくなる微妙なバランス。このライトの傘の叩き出しの円形金属は上樂氏のオーダー。
  •  ・最後に
  •  今回、大型カメラによるフィルム写真である。私も「しのご(エイトバイテンの1/4の面積)」のカメラで当館の展示写真の多くを撮ったので大変さはわかるつもりだ。
     撮影は暗い所と明るいところの露出を測ることから始まるが、私の骨董品のように古いレンズシャッターはスピードの精度、古いセレンの露出計は測定精度の問題を抱えていた。
     また、かつて我が家に引き伸ばし機があり洗面所を暗室として現像したことがある。
     実は母の平松輝子も妹の高橋真理も引き伸ばし機で現像していた。自由に現像したい人たちだった。
     フィルム写真はデジタルより光のダイナミックレンジが広いといわれファンは多い。
     また、逆に撮影が大変だから一枚の撮影に集中せざるを得ない緊張感がある。
     大型カメラ特有のリアリズムと巨大画面(ライトボックス)で知られるカナダのジェフ・ウォールという世界的写真家がいる。
     今回の写真を縦3m位に巨大化してアメリカの美術館で見てみたい。
     この写真展のきっかけは四国の山中に住まわれて音楽活動をされ、当館でも演奏会を開いた中嶋恵樹さんつながりだったが、新型コロナ騒ぎで本人は来られなかった。
     いつかこれらの写真をプロジェクターで壁面に投射して音楽会を開ければ、と想像はふくらむ。
     今回、文化芸術活動の振興、写真文化の育成としてフィルム写真の啓もう活動をされている一般財団法人戸部記念財団 アトリエ シャテーニュの企画によりご協力をいただき、林知英氏には展示まで手伝っていただき感謝したい。


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  • 2020/ 7月23日(木)~8月9日(日)
        






















 














そこに居る#2

オノコロ島

森にて#1

オオカミ

森にて#2

Iwawo#2(密着バージョン)

鉾のあ、うん#2

ヘンロミチコ

Iwawo#3

Yatagoro#2

Kannami#3

Namikiri

派生#2

Mrの朝

森にて#3

作品写真  (展示品撮影とデータ混在)

会 場 の 様 子

※ 展覧会の様子がパノラマでご覧になれます