- マスク・プロジェクト
北海道帯広在住で帯広コンテンポラリーアート展を企画して活動中。今回、ニューヨークなど世界各地で行ったマスクのインスタレーションの写真とビデオなどを展示。
「大気汚染が日本の社会問題となっていた1999年からガーゼマスクを用いてアート活動をしている。マスクは「呼吸・大気・生命」といったことを容易に連想させてくれる素材だ。森林の樹木や先々の様々の物体にマスクをかける行為と、そこから派生する作品に向かい合いながら地球環境について考えたい。
新得町サホロ湖周辺の樹木2000本にかけたマスクについて3か月から72か月とマスクを定期的に収集し、その汚れの過程をマスクの標本(MASK SPECIMEN)および沈黙の呼吸(SILENT
BLEATH)として視覚化した。(抜粋)」
マスク・プロジェクトで訪れたアメリカ他世界各国において、写真、ムービーを撮影してその活動を行ったが、それを一つのビデオにまとめている。
さらに、たまたま9.11の同時多発テロの時期に出会い、ニューヨーク市民の協力を得て、9.11についての市民のビデオメッセージを撮ることができた。
「サイレント・ブレース2001は2001年の10月11日、マンハッタンのスタジオで収録されたビデオ。出演者は新聞広告の公募によるオーディション43人から選ばれた36人。同時多発テロの感想を自由に語ってもらい、さらに目の演技、手の演技と重ねて編集された。「人間が人間の呼吸を奪い支配する行為を含む人間のあらゆる行為、全生命に早晩訪れるだろう生命の危機について再考察する。(抜粋)」
今回それらのビデオもビデオパフォーマンスとして発表した。一つは、眼だけの演技と言葉をリンクさせ、次は腕で演技をしてもらったものだ。一つの記録として重要なものとなった。
残念ながらその後、中国の大気汚染、日本の放射能汚染など環境破壊が深刻化し、様々の予告は残念ながら的中しつつある。これらは今から15年前のプロジェクトは古いといえば古いが、今回の展示は、池田緑の回顧展ともいえよう。画家の意志(コンセプト)を直接表現するための行為がアートだった。館内にもマスク・プロジェクトが。
■略 歴(現代美術家)
1943年、朝鮮の咸興に生まれる。終戦後は、秋田・札幌・釧路で育つ。
北海道教育大学卒業後、帯広に在住。
80年代から独立展や全道展に油彩画を出品。
90年代半ばから現代アートの分野に踏み込み、マスクを用いた<マスク・プロジェクト>を広く展開する一方で、アクリルパイプや文具のプラスチックテープなど斬新な素材を用いて時間の連なりを映し出すインスタレーション作品を発表。
写真の技術を応用した版画作品、アートパフォーマンスの記録映像なども手がける。
近年は、自分や人々の言葉の集積の造形化に取り組んでいる。
■主な個展
'93 弘文堂画廊(帯広)/'99 センターポイント(東京)
'02 北海道立帯広美術館/'08、'12 アートホール東洲館(北海道深川)
'10 北海道立釧路芸術館/'10 ギャラリー門馬ANNEX(札幌)
'12 STV北2条エントランスアート(札幌)
'15 ギャラリーレタラ、法邑ギャラリー(札幌)
'16 TO OV(札幌)
■主なグループ展
'96、'98、'99、'00 現代日本美術展(*'99受賞)
'98、'99、'00 天理ビエンナーレ
'03、'04 アートプログラム青梅
'06 大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ
'07、'10 あおもり国際版画トリエンナーレ(*’07受賞、’10受賞)
'11 帯広コンテンポラリーアート「真正閣の100日」(企画・実行委員長)
'14 帯広コンテンポラリーアート「防風林アートプロジェクト」
'14 500m美術館「北の脈」(札幌)
■出版 '15 「マスクをかけた世界のまち A World Masked,1999~2011」(現代企画室)
■助成 ‘01 北海道文化財団海外派遣芸術家(NYに滞在)
'14 文化庁特別派遣芸術家在外研修員(NYで研修)
■作品収蔵
- 北海道立帯広美術館、北海道立釧路芸術館、青森テレビ、青森放送、
六花亭製菓株式会社ほか
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- 「五つの様相」展に
- 八 覚 正 大 美 術 評 論 家 寄 稿
- 五人の作家が、それぞれの主題を元に己の身心の重みをかけた力強い表現を展開した。
小品群は一階に常設されつつ、二階では前期後期とに分け大作を展開することによって、作家たちの「リビドー」を実感させるこの館ならではの展示空間が拓かれた。
池田緑は、なかでもイズムパフォーマンスともいえる《マスク・プロジェクト》を提示している。大気汚染が社会問題となった二十世紀末から、日本でつくられたマスクを用い、「呼吸・大気・生命」に関して、年齢性別に関係なく、さらに地域・国境を超えて、マスクを自然の中へ都市空間へと接着(随所で掛けまくって)させている。
- 経歴を見ても、様々なビエンナーレ、トリエンナーレにエントリーし、実に精力的だ。マスクが置かれ掛けられた写真画像と併行して動画がおもしろい。行為のプロセスがよく分かる。また眼だけで思い(9.11の時、現地にいた作者は何とか思いをと新聞広告を出しボランティアを募り実現させたものだ)を語らせることなども、そのプロセス(人を集め、場を設定し、行為をさせ、記録し、それを伝える……)にかける意のエネルギーは並々ならぬものがあったろう。そういえば、クリストが小さな物体から出発し巨大なモニュメント・自然の梱包、あるいはアンブレラシリーズなどを手掛けた発想と行為の空間を、一つひとつの小さなマスクから連想させられた。
今後どのような形で、その発展生成が広がって行くのか、興味は尽きない。日本発のマスクのみならず、人類は世界中に言語を発生させたように、各国で作られたマスクの工夫を見てみたいと思ったりもする。ふと、美術館二階のラウンジでお茶を飲んだ時、平松輝子の「風の塔」にもマスクが白い粋な花バッグのように掛けられているのを見て、美術というものの自由性を感じつつ、くしゃみが出た。
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- 5つの様相
- 平 松 朝 彦
・池田作品について
作者は北海道帯広在住で帯広コンテンポラリーアート展を企画して活動中。今回、ニューヨークなど世界各地で行ったマスクのインスタレーションの写真とビデオなどを展示。
- マスク・プロジェクトとは「大気汚染が日本の社会問題になっていた1999年から、日本のガーゼのマスクを用いてアート活動「マスク・プロジェクト」を展開しています。
- マスクは「呼吸・大気・生命」といったことを、性別や年齢、国境をこえて容易に連想させる格好の素材と考えたからです。」その一つであるサイレント・ブレース2001は2001年の10月11日、マンハッタンのスタジオで収録されたビデオ。出演者は新聞広告の公募によるオーディション43人から選ばれた36人。
- 同時多発テロの感想を自由に語ってもらい、さらに目の演技、手の演技と重ねて編集された。「人間が人間の呼吸を奪い支配する行為を含む人間のあらゆる行為、全生命に早晩訪れるだろう生命の危機について再考察する。(抜粋)」その予告は残念ながら的中しつつある。 これらは今から15年前のプロジェクトだから古いといえば古いが、今回の展示は、池田緑の回顧展ともいえよう。館内のツリーにもマスクが。画家の意志(コンセプト)を直接表現するための行為がアートだった。
- 「マスク・プロジェクトU-FORUM(2016)」(パフォーマンス)
- 「ニューヨーク・同時多発テロ」(ビデオパフォーマンス)
- 「マスク・プロジェクト・イン ニューヨーク」(写真)
- 「マスク・プロジェクト・イン ワールド」(ビデオ)