平松輝子「墨の世界」展

  

     平松 輝子 「墨の世界」展

  •     「Another world 西洋と東洋」  宇フォーラム美術館 館長 平松 朝彦
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     ギリシャは西洋文明の起源。平松は廃墟となったギリシャの遺跡を訪れ、その廃墟に当時の文明を想い、その形跡を墨で描いた。そして1995年、その作品でハイデルベルグのクンストフェアラインでインスタレーションをしたが、今回はその再現である。
    一方、日本の古代文明もギリシャに比すべき歴史がある。円は、禅の瞑想のシンボルだ。そして同 時に様々の形は古代文明の「原形」でもある。これらの墨はもはや書道や水墨画とまったく関係がなく、新たな素材として使われている。単純で複雑。大胆で繊細。白黒の美さらに垂らしこみの技法は日本の技だ。
     そしてこの展示もまた、伝説となった隅田川沿いの三菱倉庫内のギャラリー上田、ウェアハウスにおける展示の再現でもある。この古代のギリシャとの日本。二つは現実の世界ではないという意味でアナザーワールド。この西洋と東洋の二つの世界を同時に見るという不思議。
     ギリシャのインスタレーションは立体的に構成された絵画を見て歩くことは、本当の神殿の中を歩く体験を彷彿とさせる。神殿の柱の陰に、儀式を執り行う人々の集いを想像させる。
     日本の絵画は装飾から始まっている。神々のための装飾は美しくなくてはならなかった。だから写実的リアリズムは求めない。「印象派はジャポニズム」という説があるように、日本の絵画は印象であり、かつ本質の表現であるという意味では具象の抽象化である。さらに墨の表現技法としては中国の宋時代の水墨画に端を発する没骨法。さらに宗達のたらし込みの技法がある。まず、平松のギリシャ神殿の大胆な一筆書きの大理石の円柱はそうした伝統の延長にあり、リアリズムではなく、過去の痕跡つまり印象である。
     一方、扉シリーズには、たらし込みの技法が使われ、やはり時間の経過を表すものとして画面に深みを与えるといえよう。さらに裏から墨を描いたりして技法のパレードだ。
     宗達が現代に生まれ変わったらこのような絵を描くかもしれない。平松は現代美術だが、日本の伝統を革新しているという意味で、現代という名前の枠も不要である。

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  •  月火水休館 PM1:00~5:00
  • 2018/2月15日~3月4日 

※ 展覧会の様子がパノラマでご覧になれます