- 「レクイエム・ヒカリアレ」160×388 (2015年)
- レクイエム・イノチノタネ160×160、2点 (2013)
- より豊かに、力強く長する(イノチ)
中野 中
く生命>をテーマに制作続ける伊藤行子が、発表の主舞台とする美術文化展の出品作に加えた大作展を開催する。
彼女がく生命>をテーマに描くようになったのは、ほぼ20年前、ニューメキシコ州サンタクララでネイティプアメリカンの家にホームステイした体験が契機となった。自然に包まれ自然と共にある日々の生活が、天地海からインスピレーション(啓示)を承け、35億年前に生命が誕生して以来、脈々と引き継がれてきた生命の記憶が、体の芯からの響きとなって呼ぴ起こされたのだ。
以降、「かつて生命は海から」に始まり、「イノチノタネ」シリーズを経て、現在の「レクイエム」の連作へと展開してきた。「レクイエム」を彼女をして描かしたのは言うまでもなく4年前の未曾有の東日本大震災である。
被害者は言うに及ばず、誰にとっても生命の無常をあらためて覚えさせ、生きる気力を奪っていった。画家たち表現者はその虚しさに筆さえ持てなかった。何かしなくては、ひたすらな思いから仲間と子供たちへの支援活動をしながら、ようやくの思い出描いたのが「レクイエム」であり、今日に続くシリー
ズとなった。
作品「レクイエム」(162×324cm)は大きく盛り上がる津波がうねり、大地に覆いかぶさろうとしている。帯のように連なっているのは太古から脈々と受付つがれてきたイノチであり、浮遊する青い球体は胞子のように生まれたイノチだ。空は薄光明を孕んで明るさを帯びている。
この明るさを思えば、大きな荒波は大地を覆い尽くしたそれではなく、負けずに立ち上がろうとする意思のようである。このシリーズの初期の鋭角的な刃物のような波とは違って、しなやかな強さをもった生命体なのだ。
何よりも、海中であった景から浮上して、ここには天地海がある。インスピレーションによって得た生命が海に生まれ、ようやくにして今、眼前の生命への前向きな意思を感じさせる。
あの震災から9日目、漂流した家から祖母とともに奇跡的に救出された少年が、症例はアーティストになりたいと言った。この少年に生きる勇気を与えたアートの力、その力こそ「イノチノタネ」として、伊藤行子は今日も筆を持つ。
(美術評論家)
- 私は4年前に起きた東日本大震災と福島の原発の爆発事故をTVで知り大きな衝撃を受けました。震災でたくさんの人が亡くなり、すぐに支援活動を始めましたが、現地で大変な思いをしている人々を思うと絵を描く行為に対
して言い知れぬ無力感に当時は襲われました。
震災3ヶ月後、祖母の実家である宮城県岩沼市を訪ねましたが、津波に流されたがれきの残骸がまだ残されていて、壊された住宅の補修もままならない状態でした。
その後、たびたび宮媛県を訪れる事になり、自然の猛威にさらされた海岸線の街跡は想像以上のダメージを受 けた風景が広がっていた。 「 自然は命を生み出し、命を奪う・・生成と生滅の流展」
の姿を現実 に知る事とな った。 しかし、海や川や山に、生き残った植物や動物が淡々と生き続けるたくましい存在が、ある事も知る事 ができた。
私は「いのち」というテ ーマを長年描き続けてきたのですが、この体験は『命』の概念を見つめ直す機会となりました。 この度は『生と死の循環』を含む、鎮魂の思いを込めた作品を展示致しました。